子どもの近視について、「できるだけ止めたい」「将来が心配」と感じている親御さんは少なくありません。
一方で、近視進行抑制について調べるほど、治療法や情報が多く、何を基準に考えればよいのか分からなくなることもあると思います。この記事では、近視が進む仕組みから進行抑制治療の考え方、進んでしまった場合の出口戦略、そして将来の視力矯正までわかりやすく解説します。
お子さんの近視について、冷静に、長期的に考えるためのヒントになれば幸いです。
近視の進行

「近視が進む」と聞くと、多くの方は「視力が下がること」を思い浮かべるかもしれません。しかし、医学的に見た近視進行の本質は、視力の数字そのものではありません。
近視が進む本当の意味
近視の進行とは、眼球が前後に伸びて眼軸(がんじく)が長くなることを指します。
本来、目に入った光は、角膜や水晶体で屈折し、網膜のちょうど上にピントが合います。しかし眼球が伸びると、ピントが網膜の手前で合ってしまい、遠くがぼやけて見える状態になります。
ここで重要なのは、近視の進行=視力低下ではないという点です。
メガネやコンタクトを使えば視力は1.0以上に矯正できますが、眼球の伸び自体は止まっていないことも少なくありません。見えているから安心、という判断は医学的には正しくない場合があります。
進行予防の基本〜生活習慣とその科学的背景
近視進行抑制は、治療だけで完結するものではありません。生活習慣の影響も大きく関わっています。
屋外活動が近視進行を緩やかにする理由
屋外活動が近視進行を抑える理由として、光刺激によるドーパミン分泌が関与していると考えられています。
ドーパミンは、眼球が過剰に伸びるのを抑える働きを持つ神経伝達物質です。
屋外の明るさは、室内照明よりもはるかに強く、この刺激が眼の成長に影響します。単に「外で遊ぶと良い」という経験則ではなく、生理学的な根拠があります。
近業距離と休憩の理論的根拠
近い距離を長時間見ると、ピント調節に負担がかかり、眼球成長を促す刺激が増えます。
これを避けるために提案されるのが、20-20-20ルールです。
これは「20分近くを見たら、20秒、20フィート(約6m)先を見る」という考え方で、ピント調節を一度リセットする目的があります。
重要なのは、単なる目の休憩ではなく、調節機能の負荷を減らすことです。
スクリーン時間の影響
スクリーン使用による影響は、ブルーライトだけではありません。画面を見るときはまばたきが減り、ピント調節が固定されやすくなります。この状態が長時間続くことが、近視進行の一因になります。
進行抑制治療の選択肢と考え方

ここから近視進行抑制治療についてお話ししますが、まず大切な前提があります。
すべての子どもに、必ず治療が必要なわけではありません。
近視進行抑制は、「視力が悪いから始める治療」ではなく、この先どのように近視が進んでいく可能性があるかを見据えて行う医療です。
誰に適応するのか?
年齢
近視は、眼が成長している時期ほど進みやすいという特徴があります。
特に学童期から思春期にかけては、眼軸が伸びやすく、進行スピードも速くなりがちです。
同じ近視でも、
- まだ成長期の子ども
- 成長がほぼ落ち着いた年齢
では、治療を考える意味合いが大きく異なります。
近視の進行速度
近視がどれくらいの速さで進んでいるかは、非常に重要な判断材料です。
例えば、「半年〜1年で度数が大きく進んでいる」といった場合は、将来的に強度近視へ進むリスクが高くなります。
一方で、
- 度数がほとんど変わっていない
- 数年間安定している
場合には、すぐに治療を始めず、経過観察を選ぶこともあります。「進んでいるかどうか」は、1回の検査ではなく、時間をかけて評価します。
眼軸長や屈折値
視力検査の結果だけでは、近視の本当の進行は分かりません。医師は、眼軸長(眼球の長さ)や屈折値といった客観的な数値も確認します。
視力が良好でも、眼軸が伸び続けている場合、近視は水面下で進行している可能性があります。逆に、視力が下がっていても、眼軸の変化が少ないケースもあります。
このため、
「見えにくい=すぐ治療」ではなく、「眼の中で何が起きているか」を重視するのが眼科医の考え方です。
生活環境
近視の進行には、日常生活も大きく関わります。
- 近くを見る作業が多いか
- 屋外で過ごす時間は十分か
- スマートフォンやタブレットの使用時間
- 学校や習い事の環境
これらを聞き取ったうえで、生活改善だけで対応できるのか、治療を併用すべきかを判断します。
場合によっては、「まず生活習慣を整え、その結果を見てから治療を検討する」という段階的な方針を取ることもあります。
単に「視力が悪いから」では始めない理由
メガネやコンタクトを使えば、視力はある程度すぐに改善できます。しかし、それは近視そのものが治ったわけではありません。
近視進行抑制治療の目的は、「今見えるようにすること」ではなく、将来、眼が過剰に伸びてしまうのを防ぐことです。
そのため医師は、
- 本当に進行リスクが高いか
- 治療のメリットがデメリットを上回るか
- お子さんとご家族が無理なく続けられるか
といった点を総合的に考え、治療の必要性を判断します。
進行抑制治療の選択肢と考え方
オルソケラトロジー(ドリームレンズ)
オルソケラトロジーは、寝ている間に特殊なコンタクトレンズを装用し、角膜の形を一時的に整える治療法です。
朝レンズを外すと、日中はメガネやコンタクトを使わずに過ごせることが特徴です。
近視進行抑制の観点では、「周辺部デフォーカス」と呼ばれる仕組みが関係しています。
通常の近視では、網膜の中心は見えていても、周辺部分ではピントがずれてしまいます。この状態が、眼球が前後に伸びる刺激になると考えられています。
オルソケラトロジーでは、角膜形状を調整することで、網膜の周辺部に生じるピントのずれを軽減し、眼球が伸びにくい環境を作るとされています。
日中は裸眼で生活できるため、スポーツや屋外活動が多いお子さんにとって、生活面でのメリットが大きい治療法です。ただし、正しい装用管理と定期的な眼科検査が欠かせません。
近視抑制用ソフトコンタクトレンズ(EDOF)
近視抑制用ソフトレンズは、ピント調節のズレ(調節ラグ)に注目した治療です。
近くを見る作業が続くと、目のピント調節がわずかに遅れたり不足したりすることがあります。この状態では、網膜上に正確な像が結ばれにくくなり、近視進行の一因になると考えられています。
EDOF(拡張焦点深度)という技術を用いたレンズでは、ピントが合う範囲を広げることで、網膜に安定した像を届けやすくする設計になっています。
その結果、ピント調節の負担が軽減され、眼球の成長に影響する刺激を減らすことが期待されています。
日中に装用するソフトレンズのため、メガネに慣れていない年齢のお子さんや、見え方の安定性を重視したいケースで検討されることがあります。
低濃度アトロピン点眼(リジュセア®ミニ)
低濃度アトロピン点眼は、眼球の伸びをゆるやかにする目的で使用される点眼治療です。
2024年末には、国内で初めて薬事承認を受けた国産製剤として「リジュセア®ミニ」が登場しました。
1日1回の点眼で、従来よりも副作用を抑えながら近視進行を抑制することを目指した設計となっています。
近視を「治す」薬ではありませんが、成長期における進行スピードを緩やかにする手段の一つとして位置づけられています。
点眼治療は、装用管理が難しいお子さんでも取り入れやすい反面、効果の現れ方には個人差があるため、定期的な評価が重要です。
近視が進んでしまう場合の出口戦略

近視進行抑制を考えるとき、多くの方が「止めたい」「できれば進まないでほしい」と願います。これは自然な気持ちです。ただし医師の立場からは、最初に共有しておきたい前提があります。進行抑制は、“進行をゼロにする治療”ではありません。
進行が止まらない場合でもあきらめない理由
進行抑制治療をしていても、近視が少しずつ進むことはあります。そのときに「治療が効いていないのでは?」と感じてしまうのは、評価の物差しが「視力だけ」になっている場合が多いです。
近視評価で大切なのは「視力」より「進行のペース」
たとえば、メガネをかければ視力は1.0以上に出ます。でもそれは「見え方を整えている」だけで、眼球(眼軸)が伸びること自体を直接止めるものではありません。
進行抑制で見たいのは、
- この半年〜1年で、どれくらい進んだか
- 治療前と比べて、進む速度が落ちているか
- 眼軸の伸びが緩やかになっているか
という「変化のスピード」です。
「進んだ=失敗」ではない
進行抑制の目的は、現実的にはこうです。
- 強度近視の領域に入らないようにする
- 将来の眼の病気のリスクを増やしにくくする
- 選択肢(矯正や将来の治療)を残す
つまり、近視が少し進んだとしても、“何もしなかった場合より進行が小さくできている”なら、治療の意味は十分あると考えます。
治療の組み合わせと最適化
出口戦略とは、固定されたゴールではなく、調整し続ける設計です。
近視進行は、年齢や生活環境の変化でペースが変わります。たとえば、学年が上がって勉強時間が増えたり、受験期に屋外活動が減ったりすると、急に進みやすくなることがあります。
だから治療も「一度決めたら終わり」ではなく、状況に応じて見直すのが正常です。
併用が検討される背景(考え方)
点眼(低濃度アトロピン)とオルソケラトロジーなどを併用するケースがあるのは、「どちらが優れているか」ではなく、違う方向から進行要因にアプローチするという考え方があるからです。
- 点眼:眼の成長シグナルに関わる部分を調整し、進行ペースを抑えることを期待
- オルソ:見え方の設計(周辺部のピント)を変えて、眼軸が伸びにくい環境を作ることを期待
ただし併用は万能ではなく、効果・管理の負担・副作用・生活の合う合わないを見ながら慎重に判断します。
見直しを考えるタイミング
医師が見直しを検討するのは、たとえば次のようなときです。
- 進行ペースが想定より速い状態が続く
- 生活環境が大きく変わった(受験・部活・端末学習の増加)
- 装用管理が難しく、続けること自体が負担になっている
- 期待値と現実の差が大きく、不安が強い
出口戦略は、治療を「続ける/やめる」の二択ではなく、“続け方を変える”という選択が中心になります。
強度近視に進んだ場合の視力矯正選択肢
近視が強くなると、日常生活は矯正(メガネ・コンタクト)で対応できます。ただ、医師が気にするのは「見えるかどうか」だけではありません。強度近視で重要なのは「将来の制限が増える」ことです。
強度近視になると、
- 眼底(網膜)への負担が増える
- 合併症リスクが上がる
- 将来の視力矯正(選択肢)が狭くなる可能性がある
といった点が問題になります。
ここで誤解されやすいのは、「手術をすればいい」という発想です。
視力矯正手術は選択肢の一つですが、誰でもできるわけではありませんし、適応には条件があります。
だからこそ、出口戦略でいちばん大切なのは、“どこまで進ませないか”という上限設計です。
出口戦略の目的は「未来の選択肢を残す」つまり、出口戦略とはこう整理できます。
- 近視が“少し進む”ことは想定内
- ただし、強度近視の領域に入りにくくする
- 結果として、将来の眼の健康と治療の選択肢を守る
この視点を持っていると、治療中に数字が動いたときも必要以上に不安になりにくく、「次にどう調整するか」を冷静に考えやすくなります。
視力矯正手術を考える際のポイント

近視進行抑制は、今すぐ視力矯正手術を考えるための医療ではありません。
むしろその目的は、将来、必要になったときに選択肢を残しておくことにあります。視力矯正手術は便利な方法ではありますが、誰でも、いつでも受けられるものではありません。だからこそ、成長期の段階から「どう考えるか」が重要になります。
どの年齢で考えるべきか
視力矯正手術は、眼の成長が安定してから検討する医療です。中高生のように成長期にある段階では、基本的に手術の対象にはなりません。
その理由は、成長期の目はまだ変化の途中にあるからです。眼軸が伸び続けていたり、近視の度数が年単位で変わっていたりする状態で手術を行っても、その後に再び近視が進んでしまう可能性があります。
医師が見ているのは「年齢」そのものではなく、眼の状態がどれだけ安定しているかです。
中高生の時期は、近視進行抑制を中心に考え、将来の判断を先送りできる状態を作ることが大切な段階です。一方、成人になり、眼の状態が落ち着いてきた段階で初めて、矯正方法の一つとして手術が検討されます。
手術の適応と不適応
視力矯正手術は、本人の希望だけで決まるものではありません。眼の条件によって、できるかどうかが大きく左右されます。
特に影響するのは、角膜の厚さ、近視の度数、そして眼軸の長さです。強度近視の場合、角膜を削れる量に制限があったり、リスク評価が厳しくなったりするため、手術自体が適応外と判断されることもあります。
「将来必ず手術をするため」ではなく、将来、手術を含めた選択肢を失わない状態を保つことが目的になります。
治療前に確認すべき項目
仮に将来、視力矯正手術を検討する段階になったとしても、医師は視力の数字だけで判断することはありません。
まず確認するのは、ドライアイの有無です。ドライアイが強い場合、手術後に目の乾きや不快感が続くことがあり、事前の評価と対策が欠かせません。
次に重要なのが、近視の度数が安定しているかどうかです。直近でも近視が進んでいる場合には、手術を急がず、経過を見た方が良いケースもあります。
さらに、その人の日常生活も重要な判断材料になります。仕事で目を酷使するか、夜間運転が多いか、スポーツをどの程度行うかなどによって、最適な矯正方法は変わります。
このように視力矯正手術は、眼の状態と生活背景の両方を踏まえて慎重に判断される医療です。
大人になったら選べる視力矯正手術

近視進行抑制は、「子どものうちに治療を終わらせる」ことが目的ではありません。本当の意味は、大人になったときに、どんな選択肢を持てるかを守ることにあります。視力矯正手術も、その選択肢の一つです。ただし、いつでも・誰でも受けられるわけではありません。
ここでは、親御さんに知っておいてほしい最新の視力矯正手術の考え方を、分かりやすく整理します。
次世代レーザー治療の進化
① 次世代レーシック
「レーシックは昔の手術」というイメージを持っている方も少なくありません。しかし現在のレーシックは、精度・安全性ともに大きく進化しています。
最新のレーシックでは、一人ひとりの目の形や、肉眼では分からない微細なゆがみまで詳細に解析し、そのデータをもとにレーザー照射を行います。その結果、従来よりもより自然で質の高い見え方を目指せるようになっています。適応条件を満たしていれば、現在でも有力な選択肢の一つです。
② スマイルプロ
近年、海外を中心に第一選択となりつつあるのがスマイルプロです。この手術では、レーシックで必要だった「角膜フラップ」を作らず、数ミリの小さな切開から近視を矯正します。レーザー照射時間は短く、目への負担が少ないことが特徴です。そのため、術後の回復が早く、ドライアイのリスクが比較的低いとされています。
特に、スポーツや体を動かす活動が多い方には、適した選択肢になることがあります。
③ ICL(眼内コンタクトレンズ)
ICLは、目の中に小さなレンズを挿入して視力を矯正する方法です。角膜を削らないため、レーザー治療が適さない強度近視の方でも対応できる点が大きな特徴です。
一方で、注意点もあります。手術の安全性自体は高いものの、10年、20年先に目の状態が変化した場合、レンズを抜去・交換する再手術が必要になる可能性があります。そのためICLは、「将来ずっと何もしなくてよい治療」ではなく、レーザー治療が選べない場合の現実的な選択肢として位置づけられます。
視力矯正手術の特徴を比較表
| 手術方法 | 主な特徴 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 次世代レーシック | 高精度レーザーで角膜を矯正 | 近視が安定している人 | 角膜条件に制限あり |
| スマイルプロ | 切開が小さく回復が早い | スポーツをする人 | 適応条件の確認が必要 |
| ICL | 角膜を削らない | 強度近視 | 将来的な再手術の可能性 |
視力矯正手術は、「どれが一番良いか」を決めるものではありません。その人の眼の状態・生活・将来設計に合うかどうかで選ばれます。だからこそ、子どもの近視対策で最も大切なのは、「将来、選べる状態を残しておくこと」です。
親が子どもに贈れる3つのギフト

ここまで見てきたように、近視進行抑制は「今、よく見えるようにする」ためのものではありません。
将来の目の健康と選択肢を守るための考え方です。
親ができることは、特別な治療を選ぶことだけではありません。日々の関わり方そのものが、大きな意味を持ちます。
「見える」だけでなく「健康な眼」を育てる意識
メガネやコンタクトを使えば、視力は補えます。しかし、眼球がどれだけ伸びたか、将来どんなリスクがあるかといった点は、後から取り戻すことができません。
視力の数字だけにとらわれず、眼そのものの状態を気にかける視点を持つことは、子どもにとって大きな財産になります。
定期検査を習慣にすること
近視の進行は、急激に悪化するよりも、気づかないうちに少しずつ進むことが多いものです。
定期的に検査を受けることで、進行のスピードを把握でき、必要なタイミングで対策を考えることができます。
検査を続けることは、単なる確認ではなく、近視進行抑制の一部と考えてよいでしょう。
自己判断せず、専門医と一緒に考える姿勢
インターネットには多くの情報がありますが、近視の進み方は一人ひとり異なります。
近視進行抑制は、「今すぐ治療を始めるかどうか」を決めるための知識ではありません。将来、子どもがどんな選択をできる状態で大人になるかを考えるための考え方です。
近視は成長とともに変化し、治療もまた途中で見直されることが前提になります。進行が完全に止まらなくても、ペースを緩やかにし、強度近視を避け、将来の選択肢を残せていれば、その取り組みには十分な意味があります。
一人で判断しようとせず、専門医と相談しながら、その時点で最適な選択を積み重ねていくこと。それこそが、親が子どもに贈れる最も現実的で価値のある近視対策だと、医師として考えています。
参考資料
・日本眼科学会「近視矯正手術ガイドライン」
・文部科学省「学校保健統計調査(令和4年度)」
・COMET Study (近視進行に関する長期データ)
・日本近視学会「近視進行抑制に関する見解」





























