近視進行抑制とその先の未来へ

近視進行抑制とその先の未来へ
近視進行抑制とその先の未来へ

~今、親ができること。将来の「自由」と「安全」を守るための戦略~

第1回で学んだ通り、近視の進行とは「眼軸(がんじく)が伸びること」です。学童期から18歳頃までの最も伸びやすい時期に適切なケアを行うことは、親がお子さんのためにできる「3つの大きなギフト」となります。

親が今、抑制治療を選択する3つの目的

  1. 眼鏡やコンタクトレンズをしなくてはならないのはとにかく不便
  2. 万が一の災害時などでも、裸眼である程度本が読める視力を確保してあげる。
  3. 将来の緑内障や網膜剥離などの、失明に繋がる病気のリスクを減らす。
  4. 将来、より安全な「レーザー手術」という選択肢を確実に残してあげる。

1. 【データで見る】放っておくと、目はどこまで進むのか?

1. 【データで見る】放っておくと、目はどこまで進むのか?

子供の眼球は、身体の成長と共に18歳頃まで伸び続けます。対策を講じなかった場合にどれくらい近視が進むのか、その具体的な数値とリスクを直視してみましょう。

近視の進行度と裸眼視力の目安(平均的な推移)

状態度数(ジオプター)裸眼視力の目安日常生活の見え方
軽度近視-1.0D~-3.0D0.6~0.1教室の後ろから黒板が見えにくい
中等度近視-3.0~6.0D0.1~0.0220-30cmまで近づかないと読めない
強度近視-6.0D以上0.01目の前のスマホしか見えない

文部科学省の統計が示す通り、現代の子どもの視力低下は過去最高レベルにあります。

裸眼視力1.0未満の子供たちの割合:時代の推移

  • 1980年頃(テレビゲーム普及前): 小学生 約18% / 中学生 約35%
  • 現在(デジタル社会): 小学生 約38% / 中学生 約61% / 大学生 約90%

一般的な研究データでは、学童期の近視は対策をしないと年間平均で -0.5Dから-1.0Dずつ進行すると報告されています。

たとえば、小学校低学年で-1.0D(視力0.5程度)からスタートした子が、何も対策をせずに今のデジタル環境で過ごせば、中学・高校を卒業する頃には-6Dを超える「強度近視」に容易に到達してしまいます。

強度近視は、ただ「見えにくい」だけでなく、将来の失明リスクを伴う疾患の入り口です。だからこそ、この進行のスピードをいかに緩やかにするかが、一生の視界を左右します。

2. 脳への「伸びろ」という指令をブロックする治療法

近視の本質は、レンズの故障ではなく、眼球の奥行き(眼軸:がんじく)が伸びてしまった状態です。脳へ「眼球を伸ばせ」と命じるスイッチには、2つの機序があります。

  1. 調節ラグ: 近くを見るとき、ピントを合わせる力が不足し、焦点が網膜の「後ろ側(奥)」へと突き抜けてしまう現象(オーバーシュート)です。
  2. 周辺部デフォーカス: 網膜の中心ではなく「周辺部(端の方)」でピントが網膜よりも「後ろ側」に外れてしまう状態です。

これら「後ろにハミ出したピント」を感知すると、脳は眼球を後ろへ伸ばしてピントを合わせようとしてしまいます。

3. 今日からできる「眼球を守る」3つの習慣

  1. 40cm以上」の距離を保つ: 距離が近いほど、調節ラグ(ピントの不足)は大きくなります。姿勢を正し、物理的な距離を確保しましょう。
  2. 20-20-20の法則」: 20近くを見たら、20秒間20フィート(約6メートル)以上先をぼんやり眺めてピントをリセットします。
  3. 「太陽の光(2時間)」: 太陽光に含まれるバイオレットライトは、眼球の伸びを抑制する遺伝子を活性化させます。曇りや日陰でも屋外で過ごすことが重要です。紫外線に近視を抑制する効果はありませんが、発症リスクを大幅に減らすことが出来ます。

4. 脳への「伸びろ」という指令をブロックする3つの治療法

  1. オルソケラトロジー(ドリームレンズ):
    寝ている間に特殊なレンズで角膜の形を整えます。「周辺部デフォーカス」(網膜の端でのピントのハミ出し)を抑制し、日中を裸眼で過ごせるため、運動をする子に最適です。
  2. 近視抑制用ソフトレンズ(EDOF):
    「調節ラグ」(ピント合わせの力の不足によるオーバーシュート)を解消する特殊なレンズです。拡張焦点深度という技術で、常に網膜に正しい光を届けます。
  3. 低濃度アトロピン点眼(リジュセア®ミニ):
    2024年末に国内で初めて薬事承認された国産薬が登場しました。「目の形が変形するのを防ぐ、細胞レベルのストッパー」として働きます。1日1回の点眼で、副作用を抑えつつ安全に進行を抑制します。

【最新治療】赤色光治療(RLRL)

近年注目されている、低出力の赤色光を1日2回、数分間眺める新しい治療法です。

メカニズム: 目の中の血流(脈絡膜の血流)を改善し、膜を厚くすることで、眼軸が伸びるのを内側から物理的に食い止めます。眼軸が短縮するとの報告もあります。

注意点と安全性: 非常に高い抑制効果が報告される一方で、不適切な使用や体質による網膜へのダメージ(網膜障害)の報告も出始めています。最新の治療だからこそ、安易な自己判断は禁物です。必ず、定期的な網膜検査を行える専門医の管理下で受ける必要があります。

5. 18歳以降の「出口戦略」:大人になったら選べる視力矯正手術

将来「最も安全な手術」を受けられる目にしておく

18歳を過ぎて成長が止まった時、もし本人が「眼鏡やコンタクトのない生活」を望んだなら、現代医学はその願いを叶える素晴らしい技術を持っています。強度近視(-6D以上)にならなければ、将来、最高峰のテクノロジーを「最小限のリスク」で享受できます。

今、親ができること。それは、お子さんの目に「一生の目の健康」と「将来の自由な選択肢」という確かな資産を残してあげることなのです。

【大人になれば可能な最新治療】

  • スマイルプロ(レーシックの弱点を克服した革新技術): 現在、諸外国で第一選択となっている技術です。フラップを作らず、数ミリの切り口から、わずか10秒程度の照射で終わります。ドライアイのリスクも低く、目に非常に優しい手術です。
  • 次世代レーシック(進化し続けるレーザー治療): 以前のイメージを覆し、最新鋭の診断機器で目の一人ひとりの歪みを解析して精密に矯正する、極めて安全な手術へと飛躍的な進化を遂げています。
  • ICL(眼内コンタクトレンズ): 強度近視でも可能ですが、「10年後、20年後に目の状態が変化した際、レンズを抜く再手術が必要になる可能性が高い」という長期的な課題があります。

結論

将来、メンテナンス不要で最も安全な「レーザー治療(スマイルプロ等)」ができる範囲に度数を抑えておくこと。これが勝利のロードマップです。

専門医がお答えする「近視のギモン」Q&A

Q. 抑制治療は何歳まで続ける必要がありますか?
A. 眼球の成長が落ち着く18歳頃までが一般的です。

Q. レーザー治療は、度数が強くても受けられますか?
A. 度数が強すぎたり角膜が薄かったりすると、安全性が確保できず、ICLしか選択肢がなくなる場合があります。だからこそ、今のうちに進行を抑え「レーザーができる目」を維持することが戦略的なのです。

Q. ICLは一生入れっぱなしで大丈夫ですか?
A. 将来、白内障などの加齢変化が起きた際には、レンズを取り出す必要があります。一生メンテナンスフリーではないため、まずはレーザー治療ができる状態を目指すのが賢明です。

専門医が答える完全FAQ

1. 進行抑制治療(オルソ・EDOF・点眼)について

Q. オルソケラトロジーは何歳から始められますか?
A. 一般的には小学生(低学年〜)から開始可能です。自分でレンズの着脱ができる、または親御さんのサポートがあれば問題ありません。早く始めるほど、眼球が伸びるのを抑える恩恵を長く受けられます。

Q. オルソケラトロジーで、一度伸びた眼球(眼軸)は縮みますか?
A. 残念ながら縮むことはありません。オルソの目的は「これ以上、眼軸を伸ばさないこと」にあります。早めの対策が「勝利の鍵」です。

Q. 低濃度アトロピン点眼(リジュセア®ミニ)に副作用はありませんか?
A. 従来の強いアトロピン点眼と異なり、低濃度(0.025%)に調整されているため、眩しさや近くの見えにくさは最小限に抑えられています。2024年末に国内承認された国産薬であり、その安全性は厳格に確認されています。

Q. EDOF(拡張焦点深度)レンズは、普通のコンタクトと何が違うのですか?
A. 普通のレンズは「遠く」に一点でピントを合わせるだけですが、EDOFレンズはピントの合う範囲を前後に広げる特殊な構造をしています。これにより、近くを見る際の「調節ラグ(ピントの不足)」を解消し、脳への「伸びろ」というシグナルを消すことができます。

Q. これらの治療を併用することはできますか?
A. はい、可能です。例えばオルソケラトロジーと点眼を併用することで、より高い抑制効果が得られるという報告もあります。お子様の目の状態に合わせて最適な組み合わせをご提案します。

2. 視力矯正手術(スマイルプロ・レーシック・ICL)について

Q. 最新の「レーシック」と昔のレーシックは何が違うのですか?
A. 昔のレーシックは、角膜を一定の厚さで削るだけでしたが、現在の「次世代レーシック」は、目の一人ひとりの微細な歪みを解析し、それに合わせてオーダーメイドで削ります。その結果、視力の質が劇的に向上し、夜間の見えにくさやハロー・グレアといった副作用も大幅に軽減されています。

Q. なぜICL(眼内コンタクトレンズ)よりもレーザー治療を優先すべきなのですか?
A. ICLは目の中にレンズを入れるため、20〜30年後に一般的な加齢に伴う目の中の構造的変化や、白内障や緑内障などの病気になった時には、必ず「取り出すための再手術」が必要になります。一方、レーザー治療(スマイルプロ等)は角膜の形を整えるだけなので、後のメンテナンスが不要です。一生涯の安全性を考えれば、まずはレーザー治療ができる目を維持することが戦略的に正しいのです。

Q. 強度近視(-6.0D以上)だとレーザー治療は受けられないのですか?
A. 角膜にレーザーを照射する量が多くなるため、角膜の厚さが足りなくなり、安全性の観点から「ICLしか選べない」という状況になりがちです。だからこそ、18歳までに進行を抑え、スマイルプロなどの安全なレーザー治療の適応範囲内に留めておくことが極めて重要です。

3. 将来のリスクと親ができること

Q. そもそも、なぜ-6.0D(強度近視)が「危ない」と言われるのですか?
A. 眼球が前後に伸びすぎると、中の網膜や視神経が引き延ばされて非常に薄く、脆くなります。その結果、緑内障のリスクは3倍以上、網膜剥離のリスクは10倍以上に跳ね上がります。これは将来、手術で視力を回復させても「目の病気のリスク」としては残ってしまいます。

Q. 「裸眼である程度本が読める」視力を確保するメリットは何ですか?
A. 万が一の災害時や、老眼が始まった将来、あるいはコンタクトが使えない状況でも、自分の目だけで読み書きができることは生活の質(QOL)を劇的に高めます。-6Dを超えると、目の前数センチまで近づけないと文字が読めなくなり、自立した生活が困難になります。

Q. 抑制治療は何歳まで続ければ安心ですか?
A. 基本的には眼軸の伸びが落ち着く18歳頃までですが、現代は大学生や社会人になっても進むケースがあります。18歳で一度、視力矯正手術を検討するまでの「バトン」を繋ぐイメージで継続することが大切です。

4. 日常の習慣と再確認

Q. 40cmの距離を保つのが難しいのですが、良い方法はありますか?
A. 「タブレットスタンド」や「外部モニター」の活用をお勧めします。手で持つとどうしても近づきますが、固定して距離を作れば、調節ラグの発生を物理的に防げます。

Q. 太陽の光は、窓越しでも効果がありますか?
A. 窓ガラスの多くは紫外線をカットするため、抑制に有効なバイオレットライトも遮断されてしまいます。ベランダや公園など、直接外の光を浴びることが不可欠です。

出典資料

・日本眼科学会「近視矯正手術ガイドライン」
・文部科学省「学校保健統計調査(令和4年度)」
・COMET Study (近視進行に関する長期データ)
・日本近視学会「近視進行抑制に関する見解」

INDEX

000

Recommended

おすすめ記事

レーシック・SMILE・ICL後、運動はできる?

レーシック・SMILE・ICL後、運動はできる?

レーシック・SMILE・ICL手術後は、運動の再開時期が異なります。術式別にウォーキングや筋トレ、水泳などをいつから行えるか、安全な目安と注意点をわかりやすく解説します。

INDEX

000