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【第1回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。

なぜ世界ではICLではなくSMILEが選ばれるのか?眼科専門医が教える「戻せるから安心」の誤解と、角膜手術を選ぶべき医学的理由。眼内手術(ICL)と眼外手術(SMILE)のリスクを解剖学的に徹底比較。
【第1回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。
【第1回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。

現在、日本の視力回復手術の現場は、いささか歪な状況にあります。 「ICLは戻せるから安全」「角膜手術は古い」といった、医学的根拠よりもマーケティング(広告戦略)が先行した情報が溢れ、患者様が「自分の眼の形」に合わない手術を選んでしまうケースが後を絶ちません。

しかし、世界のスタンダードは異なります。 物理的に進化した最新の角膜手術(SMILE Pro等)と、眼球全体を実測する光学解析(Sightmap)、そして適応を見極めるための厳格なスクリーニング。これらを組み合わせることで、もはや「安全」は当たり前、「見え方の質」を追求する時代に入っています。

本連載は、南大阪アイクリニック理事長・渡邊敬三と、2026年春に大阪・梅田に開院する「EGEN VISION CLINIC」院長・梅本弓夏が、ネットの噂や古い常識を、最新のエビデンスと物理学の事実で上書きし、あなたが一生クリアな視界で過ごすための「屈折矯正の現在地」を提示します。


なぜ日本人は「ICL」を選び、世界は「角膜」を選ぶのか? 〜「戻せるから安心」という言葉に潜む、医学的な落とし穴〜

「角膜を削るレーシックは一度きりだから怖い。ICL(眼内コンタクトレンズ)なら、気に入らなければ取り出せるから安心だ」

今、日本のインターネット上では、こうした言説が「常識」として語られています。大手クリニックの広告を見ても、インフルエンサーの投稿を見ても、聞こえてくるのは「ICL一択」の声ばかり。まるで角膜手術が過去の遺物であるかのような扱いです。

しかし、少し視野を広げてみてください。 美容医療の先進国である韓国や、医療訴訟が頻発するため安全管理に極めてシビアな米国。これらの国々において、屈折矯正手術の第一選択(スタンダード)は、依然として「SMILE(スマイル)」や「LASIK(レーシック)」といった角膜手術です。 ICLは、角膜が極端に薄い人や強度近視の人に向けた「特殊な選択肢」という位置づけに過ぎません。

なぜ、日本だけで異常な「ICL信仰」が起きているのか。 そこには、医学的な優位性ではなく、日本特有の「恐怖心につけ込むマーケティング」と、それに引きずられてしまった情報の歪みがあります。

今回は、眼科専門医の立場から、忖度なしの「解剖学的リスク」について解説します。これを読めば、あなたが選ぶべき手術が「広告」ではなく、「あなたの眼の形」で決まる理由がわかるはずです。

1:その「安心」は本当か? 「可逆性」という言葉の罠

ICLの最大のセールスポイントは「可逆性(Reversibility)」、つまり「万が一の時は、レンズを取り出して元に戻せる」という点です。確かに、削ってしまった角膜は戻りませんが、レンズは物理的に除去可能です。

しかし、ここに大きな誤解があります。「取り出せる」ことと、「無傷で元通りになる」ことはイコールではありません。

ICLの抜去(取り出し)手術は、挿入時よりも高い技術を要するケースが少なくありません。レンズと眼内の組織が癒着している場合もあり、抜去の過程で虹彩(茶目)や水晶体(ピント調節レンズ)に物理的なストレスをかけるリスクがあります。

例えるなら、「家の中に巨大な家具を入れたけれど、気に入らないから窓枠を外して無理やり引きずり出す」ようなものです。家具は出せても、家の壁や床(眼の組織)に傷一つつけずに作業を終えられる保証はどこにもありません。

医学的には「安易なIN/OUT」は推奨されません。「戻せるからとりあえず入れてみよう」という軽い気持ちで受けるべき手術ではないのです。

2:「眼内」と「眼外」。リスクの住所が違う

そもそも、ICLと角膜手術は、リスクの所在(住所)が全く異なります。

  • 角膜手術(SMILE / LASIK): これは「眼外手術」です。眼球という家の「外壁(角膜)」のカーブを微調整するだけです。家の内部(リビング)には一歩も立ち入りません。
  • ICL: これは「眼内手術」です。角膜を数ミリ切開し、そこからレンズを挿入して、「後房(こうぼう)」と呼ばれるスペースに留置します。

ここで重要になるのが、この「後房」という場所の狭さです。 後房は、「虹彩(茶目)」と「水晶体(ピント調節レンズ)」の間の、わずかな隙間です。ICLは、この極めて狭いスペースに、生涯にわたって居座ることになります。

ここに医学的なリスクが潜んでいます。 もしレンズのサイズ選びが不適切で、スペースに対して大きすぎたり小さすぎたりすると、どうなるか。 水晶体に接触すれば「白内障(水晶体の濁り)」を誘発するリスクがありますし、房水(眼の中の水)の流れを妨げれば「緑内障(眼圧上昇)」の原因にもなり得ます。 また、手術操作そのものが眼内への侵襲となるため、角膜の透明性を保つ「角膜内皮細胞」へのダメージもゼロではありません。

「角膜を削る」というと聞こえは怖いですが、「再生しない重要な組織(水晶体や内皮)を守るために、再生はしないが強度十分な壁(角膜実質)を削る」のが角膜手術の考え方です。 一方で、「壁を削らない代わりに、眼球の機能の中枢(水晶体の直上)に異物を置く」のがICLです。

どちらが「安全」か。それはイメージではなく、この解剖学的な位置関係とトレードオフで判断すべきなのです。

3:情報の歪みに気づいた「世界」の選択

では、なぜ海外の情報の感度が高い人々は、あえて角膜手術を選び続けているのでしょうか。 それは、現在の角膜手術が、かつての「レーシック」とは別次元に進化し、「角膜強度」の問題を克服している事実を知っているからです。

特に、最新の「SMILE(スマイル)」という術式は革命的でした。 従来のように角膜を大きくめくる(フラップを作る)のではなく、わずか数ミリの小さな穴から、レンズ状の角膜片を抜き取るだけ。眼の表面の強度が保たれるため、格闘技や激しいスポーツをする人でも安全です。

「眼の中に異物を入れず(眼内リスク回避)、角膜の強度も保てる(眼外リスク回避)」

この事実を知っている海外の医師や患者たちは、ICLを「万能な上位互換」とは見ていません。「角膜手術が適応できない場合のセカンドオプション」あるいは「強度近視のための特殊な選択肢」として、冷静に使い分けているのです。 日本のように「医学的に角膜手術ができる眼なのに、広告に流されてICLを入れる」という逆転現象は、世界的に見れば特異な状況と言わざるを得ません。

■ 結論:あなたの眼は「ICL向き」か「角膜向き」か

もちろん、ICLを全否定するつもりはありません。 「角膜が生まれつき薄すぎる人」や「-10Dを超えるような強度近視の人」にとっては、角膜手術は危険であり、ICLこそが福音となります。

重要なのは、「適材適所」です。

  • ICLを選ぶべき人: 強度近視、角膜厚不足、円錐角膜の疑いがない人。
  • 角膜手術(SMILE/LASIK)を選ぶべき人: 中等度近視まで、角膜厚が十分、前房(眼の中のスペース)が狭い人。

日本の偏った広告情報に踊らされ、「高いからICLが良いはずだ」「戻せるから安心だ」と思考停止してはいけません。 あなたの眼の形、角膜の厚み、前房の深さ。それらの「実測データ」に基づいて、ベストな術式を提案してくれる医師——つまり、「あなたの眼の形なら、ICLより角膜手術の方が安全です」とハッキリ言ってくれる医師を探すこと。

それこそが、あなたの生涯の「視る力(Quality of Vision)」を守る、最初で最大の防衛策なのです。


〜眼科専門医の視点〜

巷に溢れる「ICL一強」の空気に流されないでください。医学的に正しい選択は、流行ではなく、あなたの眼の解剖学的なデータの中にしかありません。

EGEN VISION CLINICでは、特定の術式ありきの誘導は一切行いません。 最新の検査機器を用いた精密な適応検査を行い、角膜の厚み、前房深度、そして内皮細胞の状態を徹底的に分析した上で、ICLと角膜手術、どちらがあなたの眼にとって生涯の利益になるか、医学的根拠に基づいた最適な手術をご提案します。


よくある質問(FAQ)

Q. ICLを入れた後に白内障になったらどうなりますか?
A. ICLを一度抜去(取り出し)してから、白内障手術を行う必要があります。通常の白内障手術に比べて工程が増えるため、眼への負担や感染症リスクがわずかに高まる可能性があります。

Q. ICLは本当に一生入れっぱなしで大丈夫ですか?
A. 素材自体は耐久性がありますが、加齢に伴い白内障や緑内障のリスクが生じた場合や、角膜内皮細胞が減少した場合は、抜去が必要になることがあります。一生メンテナンスフリーというわけではありません。

Q. 角膜を削ると強度が下がりませんか?
A. 従来のレーシックに比べ、最新のSMILE(スマイル)手術は角膜の表面をほとんど切らないため、物理的な強度はほぼ100%保たれます。格闘技などの激しいスポーツをする方でも安全です。

INDEX

なぜ世界ではICLではなくSMILEが選ばれるのか?眼科専門医が教える「戻せるから安心」の誤解と、角膜手術を選ぶべき医学的理由。眼内手術(ICL)と眼外手術(SMILE)のリスクを解剖学的に徹底比較。

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