レーシックは高い技術で安全に行われる視力矯正手術ですが、すべての人が受けられるわけではありません。角膜の状態や目の病気、さらにはメンタル面も含めた総合判断で「見送り」となる場合があります。本記事では、レーシックが受けられない人の特徴と、その際の安全な選択肢をわかりやすく解説します。
レーシックが受けられない人はどのくらいいる?

レーシックを希望しても、誰もが受けられるわけではありません。手術の可否は、角膜の厚みや目の状態、さらにはメンタル面まで含めた総合的な判断で決まります。ここでは、医療機関で「今回は見送り」と判断される理由を解説します。
適応を決める5つのポイント
レーシックの安全性を守るため、医師は以下の5つの軸で適応を判断します。
- 角膜の構造:角膜の厚みや形が安全基準(残存角膜厚300μm以上・削除率40%以下)を満たしているか
- 視力・度数:近視・遠視・乱視の度合いとその組み合わせ
- 眼の表面・神経:ドライアイや神経痛の素因がないか
- メンタル面:不安の強さ、完璧主義、期待値の現実性
- 全身状態:年齢、妊娠・授乳、持病、服薬など
★EGENの基本方針
・年齢は原則18〜35歳
・RSB≥300µm / PTA≤40% を厳守
・LASIK/SMILEが適応外の時のみICLを検討
・すべて適応外の際は眼鏡・コンタクト継続が原則
・白内障がないのに老眼だけを理由にPCIOL(眼内レンズ置換)を行うことは原則避ける
度数や乱視が強くて受けられないケース

目の度数が強すぎたり、角膜が薄すぎる場合は、安全に手術ができないことがあります。ここでは、レーシック・SMILE・ICLのそれぞれの「現実的な限界」について整理します。
強度近視の限界ライン
理論上は広範囲の度数を矯正できますが、角膜の安全性を最優先すると、次のような上限になります。
| 術式 | 対応できる近視の目安 | 乱視の目安 |
|---|---|---|
| LASIK | −1.0〜−8.0D | 〜4D |
| SMILE | −2.0〜−9.0D | 〜3D |
| ICL | −6〜−15D(〜−20Dは部分矯正) | 〜4D |
視力が戻る「回帰」のリスク
レーシックやSMILEは、強度近視ほど長期的に再び近視化(回帰)しやすい傾向があります。
ICLは角膜を削らないため、こうした「戻り」が起きにくいのが特徴です。
目の病気や状態が原因で受けられないケース

角膜の形や状態によっては、手術そのものが危険になる場合もあります。また、ドライアイや神経の異常がある場合も、術後の痛みや違和感を防ぐために慎重な判断が必要です。
角膜の厚み・形状の異常
角膜が薄い場合や、円錐角膜・潜在的な角膜変形(サブクリニカル変形)がある場合は、屈折矯正手術を行うと角膜が変形するリスクが高まるため、手術は行いません。
ドライアイ・神経因性角膜痛(NCP)
重度のドライアイや神経因性角膜痛(NCP)の素因を持つ人は、術後の痛みが長引くことがあります。
以下に2項目以上当てはまる場合は要注意です。
- 焼けるような痛みが続いたことがある
- 風や冷気で痛みが増す
- 光や画面を見ると痛む
- 他の部位に慢性痛がある
- 不眠やストレスで症状が悪化する
NCP(焼ける/しみる痛みの既往、風や冷気で痛む、光で痛みが増す、他部位で慢性痛あり、ストレスで痛みが悪化など)が強い場合はが疑われる場合は、まず神経や眼表面の治療を優先します。
年齢・体質・メンタルが影響するケース

年齢や全身の状態、メンタルの傾向によっても手術の適応は変わります。ここでは、手術を控えた方がよいとされる一般的な条件を紹介します。
年齢・妊娠・全身疾患
- 年齢:18〜35歳が原則
- 妊娠・授乳中:ホルモン変化で視力が不安定になるため延期
- 自己免疫疾患・糖尿病:病状や服薬内容により医師の判断が必要
メンタル面の要因
次のような傾向が強い人は、術後に後悔する可能性が高くなります。
- 強い不安傾向、完璧主義
- 小さな見え方の違いを受け入れられない
- 結果への期待が現実的でない
こうした場合、「手術をしない方が生活の満足度が高い」という選択もあります。
レーシックが難しいときの代替手段

レーシックが受けられない場合でも、ICLなどの代替手段が選択できるケースがあります。角膜の状態や度数に応じて、より安全な方法を検討します。
ICL(眼内レンズ挿入術)
角膜を削らず、目の中に小さなレンズを入れて視力を矯正する方法です。
角膜が薄い人や強度近視の人にも対応可能です。
| 項目 | 条件・特徴 |
|---|---|
| 度数範囲 | −6〜−15D(乱視1〜4D) |
| 年齢 | 21〜35歳 |
| 注意点 | Vault(レンズの位置)管理、眼圧変化、ハロー・グレアの発生に注意 |
★EGENの原則
・安全な角膜があれば LASIK/SMILE
・角膜が不適なら ICL
・全て不適なら 眼鏡・コンタクト継続
・老眼のみを理由とした PCIOL は原則行わない
すべての手術が不適な場合
角膜や神経、全身状態のすべてにリスクがある場合は、眼鏡・コンタクトの継続が最も安全です。
後悔しないためのチェックリスト

手術前に、次のポイントを確認しておくことで、後悔を防ぐことができます。
- 残存角膜厚(RSB)や削除率(PTA)の安全基準を満たしているか
- 角膜の形に異常がないか
- NCPやドライアイのリスクを確認済みか
- 見え方の「ゆらぎ」を受け入れる心構えがあるか
よくある質問(Q&A)

Q1. 不適と言われたら諦めるしかない?
→ いいえ。SMILEやICLなど、別の術式で受けられることもあります。
Q2. 痛みに弱くても大丈夫?
→ 痛みへの感受性が高い方は、まず神経の状態を評価し、治療してから検討します。
Q3. ICLは痛みが少ない?
→ 角膜を削らないため痛みは少なめですが、光のにじみ(ハロー)には注意が必要です。
Q4. 40代以降でも受けられる?
→ 原則は18〜35歳ですが、40代以降はライフスタイルに合わせて眼鏡などを提案する場合が多いです。
まとめ〜安全な判断が一番の近道

レーシックの適応は、「角膜構造・度数・神経・メンタル・全身状態」の5つの要素で決まります。どの手術もリスクゼロではなく、すべての人に向いているわけではありません。
レーシックは「受けられるかどうか」よりも、「受けて安全かどうか」が大切です。角膜や神経の状態、心の準備が整っていないときは、あえて見送ることも賢明な選択です。焦らず、医師と相談し、自分の目に最も合った方法を選ぶことで、長く快適な視生活を守ることができます。
参考文献
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Shen Z, Shi K, Yu Y, et al. Dry eye after SMILE versus femtosecond LASIK for myopia: A meta-analysis. Eye Contact Lens. 2016;42(6):352–357.
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