白内障手術のあと、「急に黒い影が見えるようになった」「蚊のようなものが浮かんで見える」と感じる方がいます。
多くの場合は、手術によって視界が明るくなり、もともとあった飛蚊症が見えやすくなっただけです。
しかし、中には網膜剥離や術後感染などの重大な異常が原因のこともあります。
この記事では、白内障手術後に見える飛蚊症の原因と、放置してよいケース・すぐ受診すべきケースを解説します。
飛蚊症とはどんな症状?

飛蚊症(ひぶんしょう)とは、その名のとおり「蚊が飛んでいるように見える症状」です。実際には存在しない黒い点や糸くず、影のようなものが視界の中をふわふわと動いて見えるため、多くの方が「目にゴミが入ったのかも」と勘違いして受診されます。
飛蚊症の見え方の特徴
飛蚊症の見え方には個人差がありますが、次のような表現で訴える方が多くいらっしゃいます。

- 黒い点が見える
- 糸くずや小さな虫のようなものが浮かんでいる
- 煙のようにフワッとした影がある
- 目を動かすと、それにあわせてスーッと動く
これらは、明るい背景(白い壁や青空など)を見たときに特に目立ちます。暗い場所では気づきにくいことが多く、光の入り方や網膜の感度によって見え方が変わるのが特徴です。
加齢性と病的飛蚊症の違いは?

飛蚊症には「加齢性のもの」と「病的なもの」があります。
- 加齢性飛蚊症(生理的飛蚊症)
加齢により硝子体が変化することで自然に起こるもので、40代以降でよく見られます。見え方が一定で、視力低下を伴わない場合が多く、ほとんどが経過観察で問題ありません。
加齢性の場合、見える影は数えられる程度の数で、比較的形のはっきりした小さな濁り(点状や糸くず状、あるいは丸に近い形やベール状など)が多く、時間が経ってもその見え方が変化しないのが特徴です。 - 病的飛蚊症
網膜裂孔(もうまくれっこう)や網膜剥離、硝子体出血などが原因で起こる飛蚊症で、突然飛蚊症が増えたり、黒い影が急激に広がる場合には緊急での対応が必要です。
病的な場合は、突然「無数の小さな濁り」が一度に現れることが多く、まるでススや灰が降っているような印象を受けることがあります。とくに「光視症(こうししょう)※稲妻のような光が見える症状」や視野欠損を伴う場合には、眼科をすぐ受診してください。
飛蚊症の原因はスマホの見すぎ?

「スマホの使いすぎで飛蚊症になる」と心配される方もいますが、スマホの使用自体が直接の原因になることはほとんどありません。ただし、長時間のスマホ使用で目を酷使すると、ドライアイや眼精疲労が起こり、「飛蚊症が目立ちやすく感じる」ことはあります。目を動かしたときに飛蚊症がついてくるように見えるので、気になりやすくなるのです。
また、疲れ目の状態が続くことで「目の中の異常かも?」と意識が向きやすくなり、これまで気づかなかった飛蚊症に突然気づくようになるケースもあります。
白内障と飛蚊症の違いとは

白内障と飛蚊症はどちらも「見え方」に関係する目の異常ですが、それぞれの症状の内容や原因、治療方針はまったく異なります。一見似たように感じられるかもしれませんが、両者を正しく理解することが早期発見・早期対処につながります。
それぞれの症状の現れ方・原因・見え方の比較
| 項目 | 白内障 | 飛蚊症 |
| 見え方 | 視界がかすむ、まぶしい、全体が白っぽい | 黒い点や糸くずのようなものが浮かんで見える |
| 見えるタイミング | 常に全体がぼやけている | 明るい場所で目を動かしたときに見えることが多い |
| 原因 | 水晶体が濁ることで光が正しく届かなくなる | 硝子体の濁りが網膜に影を落とす |
| 進行 | 徐々に視力が低下する | 急に増えるときは注意が必要(網膜の異常のサイン) |
| 治療 | 手術(白内障手術)で視力改善が可能 | 原因により経過観察または外科的治療が必要 |
飛蚊症は視界の一部に黒い影が浮かぶ「部分的な変化」なのに対し、白内障は視界全体がぼやけたり、にじんで見える「全体的な視力低下」が主な症状です。
白内障によって飛蚊症が目立つようになる理由
意外かもしれませんが、白内障が進行すると飛蚊症の影が「目立たなくなる」ことがあります。これは、白内障によって水晶体が白く濁ることで、網膜に届く光が散乱し、硝子体の中の影(飛蚊症)もぼやけて見えにくくなるためです。
ところが、白内障手術によって視界がクリアになると、それまで気づかなかった飛蚊症が「くっきり見える」ようになることがあります。そのため、手術後に「急に飛蚊症が増えた」と感じる方がいますが、これは多くの場合「もともとあった飛蚊症が見えるようになった」だけであり、病的な変化ではありません。
白内障手術と飛蚊症の関係

白内障手術を受けたあと、「急に飛蚊症が気になり始めた」とおっしゃる方は少なくありません。中には「手術がうまくいかなかったのでは?」と不安に感じる方もいらっしゃいます。しかし、実際には手術そのものに問題があるわけではなく、“視界がクリアになることで今まで見えにくかった飛蚊症が目立つようになった”というケースが多くあります。
白内障手術後に飛蚊症が気になるのはなぜ?
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、透明な人工の眼内レンズを挿入します。これによって、それまで白くぼやけていた視界が一気に明るく、シャープになります。網膜に届く光量も増え、コントラスト感度も改善するため、それまでは水晶体の濁りの陰に隠れていた硝子体の濁り(飛蚊症)が、くっきりと目立って見えるようになるのです。
つまり、「飛蚊症が新しくできた」のではなく、「今まで見えていなかった飛蚊症が見えるようになった」ということが大半です。
この現象は、特に白内障が進行していた方に多く見られます。もともと光がしっかり届いていなかった網膜に急に明瞭な光が届くようになるため、「視界の中に何かが浮いて見える」違和感を強く感じるようになるのです。
レンズがクリアになったことで「見えてくる」飛蚊症
眼内レンズは非常に透明度が高く、しかも個人に合わせて度数を調整して入れるため、術後は今までよりも視界が明るく、シャープに感じられます。こうした変化は多くの方にとって喜ばしいことですが、一方で、「前には気にならなかった飛蚊症が急に気になるようになった」という声も少なくありません。
特に、加齢性の飛蚊症がすでにあった方は、それが術後にはっきりと視認できるようになり、「手術で何か問題が起きたのでは?」と感じる方もいます。しかしこれは正常な術後の反応のひとつであり、眼科的には「異常ではない」と判断されることが多いです。
白内障手術の後遺症としての飛蚊症?

白内障手術のあと、「急に飛蚊症が現れた」「以前より数が増えた」と感じる方は少なくありません。このような症状があると、「これは手術の後遺症なのでは?」「失敗したのではないか?」と不安に思われるのも当然です。
結論から言えば、飛蚊症が見えるようになること自体は、白内障手術の“副作用”や“失敗”ではなく、ごく自然な現象であることが多いです。ただし、注意が必要なケースもあり、中でも網膜剥離と眼内炎は最も注意すべき合併症です。
一時的な症状と眼底異常の見分け方
白内障手術後に現れる飛蚊症には、大きく分けて以下の2つのタイプがあります。
① もともとあった飛蚊症が「目立つようになった」ケース(正常な術後経過)
- 手術によって視界がクリアになり、既存の硝子体の濁りがはっきり見えるようになった状態です。
- 加齢性飛蚊症によく見られ、術前は白内障による水晶体の濁りがカバーしていたため、気づかれなかっただけです。
- この場合は、特に治療は必要なく、時間とともに見え方に慣れていく方がほとんどです。
② 手術後に新たに飛蚊症が出現したケース(病的な異常の可能性)
- 手術後に突然、無数の黒い点や濁りが急激に出てきた場合は、硝子体や網膜、または眼内の感染の兆候である可能性があります。
- 特に次の2つの病態には十分な注意が必要です。
網膜剥離
- 突然、飛蚊症が急増し、光が走る(光視症)、カーテンがかかったように視野が欠ける、という症状を伴うことがあります。
- 放置すると短期間で失明に至ることもある重大な疾患であり、早期に診断・治療する必要があります。
- 白内障手術後の数日〜数週間以内にも発生しうるため、違和感を感じた時点ですぐに眼科で眼底検査を受けることが重要です。
眼内炎(術後感染)
- 白内障手術後に起こるまれな感染症で、視力が急激に低下し、飛蚊症だけでなく目の痛みや充血、視界の濁りが出ることが特徴です。
- 通常、術後数日以内に症状が出現することが多く、緊急の治療(抗菌薬の注射や硝子体手術など)が必要になります。
- 極めて稀ではあるものの、最も重篤な合併症のひとつとして、術後の経過観察で常に警戒されるべき疾患です。
手術失敗ではないが注意が必要なケース
上記2つ以外にも、飛蚊症が見えるようになる現象は術後にしばしばみられます。特に、白内障手術後に後部硝子体剝離が生じた場合、一時的に飛蚊症が増えたり、視界の中に影が見えることがあります。
このような変化自体は加齢でも自然に起こりうるものであり、白内障手術が直接の原因とは限りません。ただし、急激な変化があった場合には「重篤な合併症を見逃していないか」を慎重に見極める必要があるため、患者自身が違和感を感じたときは、自己判断せず眼科を受診することが大切です。
後嚢破損と重篤な合併症との関係について
眼内炎や網膜剥離といった重篤な合併症は、白内障手術中に「後嚢(こうのう)」と呼ばれる水晶体の裏側の膜が破れる(後嚢破損)と、そのリスクが高まることが知られています。後嚢は眼内と眼底を隔てる重要な構造であり、これが損傷すると細菌感染のリスクが高くなったり、硝子体が眼内に脱出して網膜を牽引する力が加わりやすくなったりします。
そのため、後嚢破損を起こさないような丁寧で慎重な手術操作が非常に重要です。もちろん、どれだけ注意していても完全にリスクをゼロにすることはできませんが、外科的技術の差が合併症リスクに影響する可能性は確実に存在します。
飛蚊症の治療は必要か?放置しても大丈夫?

飛蚊症に気づくと、多くの方が「このまま放置してよいのか?」「治療をしないと失明するのでは?」と不安に感じます。実際、飛蚊症は眼の中で何らかの変化が起きているサインであることもあり、一概に「放っておいて大丈夫」とも言い切れません。
では、飛蚊症を見つけたとき、どう判断すればよいのでしょうか?
基本は「眼底検査で異常がなければ経過観察」
結論から申し上げると、眼底検査で網膜や硝子体に明らかな異常が見つからない場合、多くの飛蚊症は治療せずに経過観察で問題ありません。
特に以下のような飛蚊症は、加齢や自然な生理的変化によるものであり、放置しても安全なケースがほとんどです。
- 見える影が数個程度で、動きに大きな変化がない
- 数週間〜数か月たっても症状が悪化していない
- 光が走る感じ(光視症)や視野の欠けがない
- 視力低下や痛みなど他の症状がない
このようなケースでは、「眼の中の濁りが見えているだけ」であり、生活に支障がなければそのまま様子を見て構いません。
治療が検討されるケースとは?
一方で、以下のような症状がある場合には、放置してはいけません。
- 突然、無数の黒い点が一度に現れた
- 黒い影が日々増えている
- 稲妻のような光(光視症)を感じる
- 視野の一部が欠ける、またはカーテンのような影がかかる
- 強い眼痛や視力の急低下を伴っている
これらは、網膜裂孔、網膜剥離、硝子体出血、眼内炎などの重大な病気が原因となって飛蚊症が起きている可能性があり、できるだけ早く精密検査と治療が必要です。
飛蚊症の治療にレーザーや手術は必要か?
多くの加齢性飛蚊症は、日常生活に支障がなければ治療を必要としませんが、濁りの量や位置によっては例外もあります。
加齢性でも手術を検討することがあるケース
加齢に伴う飛蚊症の中でも、濁りが非常に大きく、しかも視野の中心付近に滞留していて常に視界の邪魔になるようなケースでは、生活の質(QOL)を著しく下げるため、硝子体手術によって改善を図ることが検討されることもあります。
このような場合、患者の希望と医師の判断のもと、手術によって飛蚊症を取り除くことが選択肢となります。
網膜裂孔や硝子体出血後の飛蚊症はどうなる?
網膜裂孔や出血など、病的な原因によって生じた飛蚊症は、原因が治療されることで症状が落ち着くこともありますが、「完全に消える」ことはあまりありません。
例えば、
- 出血が吸収されることで見え方は軽くなるが、濁りの残渣が一部残る
- 裂孔がレーザーで閉鎖されても、一度できた硝子体の混濁が視界に残り続ける
「治療すれば飛蚊症もすっかり消える」と思われる方も多いのですが、実際には完全に消えることは少なく、多少なりとも濁りが残ることがほとんどです。そうした見え方の変化を前もって知っておくことも大切です。
よくある質問

Q1.飛蚊症の正体は何ですか?
飛蚊症の正体は、眼球の中にある「硝子体(しょうしたい)」という透明なゼリー状の組織の中にできた小さな濁りです。硝子体は加齢などにより少しずつ液状化し、濁りや隙間ができることがあります。光がこの濁りに当たると、網膜に影が映り、それが「点」や「線」として認識されます。つまり、飛蚊症とは「硝子体の濁りが網膜に影を落とす」ことで生じる現象です。
Q2.飛蚊症と白内障は関係ありますか?
飛蚊症と白内障は「直接的な関係」はありません。発生する場所も原因も異なるため、片方があるからといってもう片方が必ず起こるわけではありません。
ただし、どちらも加齢に伴って起こりやすい症状であるため、50代以降になると「飛蚊症と白内障が同時に存在する」ケースは珍しくありません。また、白内障手術によって視界がクリアになると、今まで気づかなかった飛蚊症が見えるようになり、「白内障と飛蚊症が関係している」と感じる方が多くなります。
Q3.白内障手術で飛蚊症は治る?
この質問も非常に多く寄せられますが、答えは「基本的には治りません」です。
白内障手術は水晶体の濁りを取り除く手術であり、硝子体の濁り(飛蚊症)の治療ではありません。したがって、飛蚊症がある方が白内障手術を受けても、その飛蚊症が消えることはほとんどありません。むしろ、視界が明瞭になったことによって、飛蚊症が「前よりも目立って感じられる」可能性のほうが高いといえます。
ただし例外として、白内障と同時に硝子体手術(※硝子体を一部取り除く手術)を併用することで、飛蚊症が軽減されることもあります。しかし、通常の白内障手術単独で飛蚊症が消えることは期待できません。
Q4.飛蚊症は白内障手術後いつまで続く?
術後すぐに目立つ飛蚊症の多くは、もともと存在していた加齢性の濁りが見えるようになっただけです。そのため、時間が経っても「完全に消える」ことは難しいですが、脳が見え方に慣れてくることで徐々に気にならなくなる方もいます。
一方で、術後に急に飛蚊症が増えた、光が走る(光視症)、視野が欠けるような症状がある、などの場合は、網膜裂孔や網膜剥離などの病的な変化が疑われるため、速やかに眼科を再受診する必要があります。
Q5.飛蚊症はほっといていい?
眼科で眼底検査を受け、「異常なし」と確認された飛蚊症であれば、多くの場合そのまま経過観察で構いません。
ただし、飛蚊症の症状は時間とともに変化することがあるため、
- 黒い影が増えてきた
- 見え方が前と違う
- 周辺視野に広がってきた
などの変化を感じた場合には、その都度再度検査を受けることが大切です。
Q6.飛蚊症は完治する病気?
飛蚊症は、厳密には「病気」というより“硝子体の中の濁りが網膜に映って見える状態”です。
そのため、自然に軽減しても完全に消えることは少なく、とくに加齢性の飛蚊症では「脳が慣れて気にならなくなる」ことが現実的な目標になります。
一方、網膜裂孔や出血などが原因の病的飛蚊症の場合は、原因の治療によって進行を止めることはできますが、飛蚊症そのものが完全に消えることは少ないのが実際です。
白内障手術後の飛蚊症は、多くが一時的で心配のいらない現象です。
ただし、突然影が増えたり光が走るように見える場合は、網膜疾患のサインかもしれません。
少しでも異変を感じたら、早めに眼科を受診し、検査を受けましょう。





























