ICL(眼内コンタクトレンズ)を受けた方や検討中の方は、「手術に失敗はある?」「この見え方で大丈夫?」と不安になることがあります。少しの違和感や想像と違う見え方をきっかけに検索する人は少なくありません。この記事では、医師の視点から「失敗とは何か」「よくある不安」についてわかりやすく解説します。
成功率は高いがリスクはゼロではない

ICLは多くのデータで安全性が証明されていますが、どんな手術にもリスクはあります。
| 代表的なリスク | 内容 |
|---|---|
| 夜間の光のにじみ(ハロー・グレア) | 車のライトや街灯がにじんで見える |
| 乱視用ICLのズレ | レンズが回転して視力が安定しない |
| Vault(ボルト)の問題 | レンズと水晶体の隙間が狭すぎ・広すぎで眼圧上昇や白内障の恐れ |
これらは早期に対応すれば改善できることが多く、医師から事前に説明されるべき内容です。
医師が考える「失敗」とは

患者さんが「失敗」と感じるケースと、医学的に問題とされるケースは必ずしも一致しません。ここでは、医師の立場から見た「失敗」の基準を解説します。
医学的に望ましくない例
- 手術に不向きなのに実施した(前房が浅い、強いドライアイなど)
- レンズサイズや入れ方のミスでVaultが極端にずれた
- 追加矯正が必要なほど視力が得られない
また、神経因性角膜痛(NCP)という目の神経が過敏になる状態では、見た目に異常がなくても強い痛みや不快感が出ることがあります。
神経因性角膜痛(Neurotrophic/Neuropathic Corneal Pain:NCP)
目に大きな傷や炎症がないのに、強い痛みやしみるような不快感が長く続く病気です。ドライアイや通常の角膜炎とは違い、心の状態(ストレスや自律神経の乱れ)とも深く関わるため、外からは分かりにくく、本人だけが強い痛みを感じます。そのため周囲に理解されにくいことも少なくありません。症状を感じたら、早めに眼科へ相談し、必要に応じて痛み外来や心療内科と連携した治療を受けることが、回復への大切なステップです。
手術後に「失敗かも」と感じる症状と見極め方

ICL手術のあとに違和感や不安を覚えても、それが失敗とは限りません。ここでは、患者さんがよく感じる症状と、自然に回復する場合・追加治療が必要な場合の目安を整理します。
よくある症状
手術後しばらくして、次のような症状が出ることがあります。これらはICL特有の一時的な変化である場合が多いです。
- 夜の運転でライトがにじむ
- 裸眼視力が期待より低い
- 頭を動かすと見え方に違和感
- 眼圧が高く通院が長引く
- 費用に見合う満足度が得られない
多くの場合、これらの症状は数週間から数か月のうちに自然に軽くなります。
視力が安定しない場合でも、必要に応じてレーザーによる微調整を行うことで安定を図ることが可能です。また、夜間のライトがにじんで見えるハロー・グレアは、想定される軽い副作用として徐々に気にならなくなるケースがほとんどです。
ハロー・グレア
ハローとグレアは、どちらも光が通常より大きく広がって見える現象です。ハローは、街灯や車のライトの周囲にぼんやりとした光の輪がかかって見える状態。グレアは、光そのものが強くまぶしく広がり、視界が白くかすむように感じる状態です。ICLなどの手術後は角膜やレンズが安定するまで一時的に起こることがあり、多くは数週間から数か月で自然に軽くなります。
受診を検討すべきサイン
自然に治まる症状が多い一方で、次のような場合は早めに医師へ相談してください。
- 痛みが強く日常生活に支障がある
- 視力が時間を置いても改善しない
- 眼圧が高い状態が続く
- 見え方の違和感が悪化している
ICL手術で失敗を防ぐために知っておきたいこと

ICLは安全性の高い手術ですが、適切な準備と注意があってこそ満足できる結果が得られます。ここでは、手術前に大切な確認事項と、起こり得る合併症、当院が行っている取り組みをまとめます。
手術前の準備
当院では「適応かどうかを丁寧に見極める」ことをとても大切にしています。
- 精密な術前検査
角膜の状態、前房(角膜と虹彩の間のスペース)の深さ、眼圧、水晶体の厚み、さらに精神的な傾向まで総合的に評価します。これにより、ICLが適しているか、レンズサイズが合っているかを判断します。 - Vault(ボルト)の設計
Vaultとはレンズと水晶体の隙間のこと。隙間が狭すぎると白内障や眼圧上昇、広すぎるとレンズが安定しない原因になります。
当院では450〜500µmを目標に、将来的な水晶体の厚みの変化も見越してサイズを選びます。 - 片眼ずつ段階的に実施
サイズ選びが難しい場合は、まず片方の目だけ手術を行い、結果を見てもう片方を判断します。これにより、より安全で納得のいく結果が得やすくなります。 - セカンドオピニオンを活用
強度近視や加齢が進んだ方、ほかの術式と迷っている方は、他院の意見を聞くことで安心して決断できます。
手術で起こりうる合併症
失敗とは言えませんが、ICLは眼内にレンズを長期間留置するため、まれに以下の合併症が起こる可能性があります。
- 白内障:レンズが水晶体に近すぎる場合などに発生することがあります。
- 角膜内皮細胞の減少:角膜を守る細胞が減り、角膜が濁るリスクが高まります。
- 虹彩炎:虹彩(茶色の部分)の炎症により、充血や痛みが出ることがあります。
- 眼圧上昇:レンズ位置や房水(目の中の水)の流れが影響して緑内障の原因になることもあります。
これらを防ぐには、手術前の検査と術後の定期検診が重要です。異変を感じたら、早めに医師へ相談してください。
当院の取り組み
ICLは適応を正しく見極めてこそ、安全で満足のいく結果が得られます。当院では次の点に特に力を入れています。
- 年齢による変化を考慮
水晶体は年齢とともに厚くなるため、Vaultは年々少しずつ下がります。将来の変化も見据えてサイズを決定します。 - 対象年齢は18〜35歳が中心
老視(近くが見えにくくなる変化)や白内障のリスクを考慮し、35歳以上の方にはLASIKやSMILEなど他の手術と比較しながら慎重に判断します。 - 神経因性角膜痛(NCP)への配慮
風がしみる、痛みに敏感、不安が強いなどの傾向がある方には、術式の選び方や術後ケアをより丁寧に提案します。 - 徹底した感染症対策
手術前・手術中の消毒を徹底し、術後も感染を防ぐための細やかなケアを行います。
このように術前の正確な検査と計画、合併症への理解、そして医師との十分な話し合いが、ICL手術を安全に成功させるための最大のポイントです。
後悔しないために

ICLは視力矯正手術の中でも安全性が高く、多くの人が満足しています。しかし「絶対に失敗しない」手術は存在しません。だからこそ、次のポイントを心に留めておくことが大切です。
- 手術前・手術中・術後のすべてにリスクはある
検査や手術の技術が進歩しても、体の状態や個人差によって想定外の変化が起こる可能性はゼロではありません。 - 事前の見極めが結果を左右する
自分の目がICLに本当に適しているかを、丁寧な検査と医師の説明でしっかり確認しましょう。 - 理想の見え方と許容できるリスクを医師と共有する
どこまでの視力を目指すのか、どのような副作用なら受け入れられるのかを事前に話し合うことで、納得した選択ができます。
十分な理解と準備があれば、ICL手術は「安心して選べる視力矯正法」として大きな力を発揮します。
よくある質問

Q1. ICL手術って失敗することあるんですか?
可能性はゼロではありませんが、成功率はとても高いです。ただ、目に合わないサイズだったり、術後に見え方が合わないと感じたりすることもあるので、事前の検査がとても大切です。
Q2. ハローやグレアって何?運転しづらくなりますか?
夜に車のライトや街灯がにじんで見える現象をハロー、光がギラついてまぶしく感じる現象をグレアと呼びます。多くの場合は手術後しばらくすると気にならなくなりますが、完全に消えるとは限りません。夜間運転をする際は、症状が落ち着くまで注意が必要です。
Q3. 視力が思ったほど出なかった場合は?
まずは眼鏡やコンタクトで調整できるか確認します。必要に応じてレーザーによる微調整や、乱視用ICLではレンズ位置の再調整を行うこともあります。
Q4. 手術後、痛みが長く続くのはなぜ?
外見に異常がなくても、神経が過敏になっている(神経因性角膜痛)可能性があります。
この場合は点眼薬や内服薬を使った治療、痛み外来や心療内科との連携が有効です。
Q5. ICLは何歳まで受けられますか?
一般的には18〜45歳程度が目安です。ただし当院では、35歳までを中心におすすめしています。年齢が上がると水晶体の変化による合併症リスクや、老眼による不便さが増えるためです。
Q6. 仕事やスポーツはいつから可能ですか?
事務仕事などの軽い作業は翌日から可能なことが多いです。スポーツは内容によって異なりますが、軽い運動は数日後から、激しい運動や水泳は1〜2週間後を目安にしてください。
ICLは高い安全性と確かな視力回復が期待できる手術ですが、「絶対に失敗しない」ものではありません。術前の丁寧な検査、リスクの理解、そして医師との十分な話し合いが、後悔しない結果につながります。
不安な点はそのままにせず、納得できるまで質問し、あなた自身の目に合った最良の方法を選びましょう。





























