抜去できる=元通り、ではありません。
ICL(アイシーエル:眼内コンタクトレンズ)は、角膜を削らずに近視や乱視を矯正できる人気の視力矯正手術です。レーシックやSMILE(近視や乱視を矯正するレーザー手術)に比べ、安心感を持つ人も多いでしょう。
しかし、ICLにはICLならではのリスクや注意点があります。ここでは、はじめて検討する方にも分かりやすく以下の点を解説します。
- 手術で新たな乱視が生じる可能性がある(惹起乱視/じゃっきらんし)
- レンズのサイズが合わないと再手術になる場合がある
- 加齢や目の状態の変化により、将来レンズを取り出す必要が出ることがある
- 「レンズを取り出せば元通りになる」とは限らない
なぜデメリットまで理解する必要があるの?

ICL手術は「一度入れれば終わり」ではありません。体の変化や手術結果によっては、将来的にレンズの抜去や交換が必要になる可能性があります。
また、ICLは自由診療で両眼50〜70万円前後と高額です。だからこそ、良い面だけでなくリスクも知ったうえで、自分にとって納得できる選択をすることが大切です。
ICL手術で起こりうるデメリット

ICL手術は高い矯正効果と角膜を削らない安心感から人気がありますが、リスクや注意点もゼロではありません。
ここでは、手術後に起こりうる代表的なデメリットを取り上げ、それぞれの原因や対処法をわかりやすく説明します。
角膜の切開で乱視が出ることがある(惹起乱視)
ICL手術ではレンズを入れるために角膜を約3mm切開します。この切開によって角膜の形がわずかに変化し、新たな乱視(惹起乱視)が生じることがあります。
一般的には0.3〜0.5D(ジオプター)程度といわれ、特に乱視用ICL(トーリックICL)では、この影響を見越してレンズ設計が行われます。
サイズが合わないと再手術になる可能性
ICLレンズは眼の形に合わせてサイズを選びますが、まれに適切でないサイズが選ばれると以下のような問題が起こることがあります。
- レンズが眼内で回転してしまい、特に乱視レンズでは見え方に影響する
- レンズと水晶体の間のすき間(Vault)が広すぎたり狭すぎたりする
この場合、レンズの入れ替えや抜去といった再手術が必要になることがあります。手術が一度で終わらない可能性がある点は知っておくべきです。
経年変化で抜去が必要になる場合もある
ICLは長期間の使用を想定して設計されていますが、加齢や眼内環境の変化によって次のような問題が起きることがあります。
- レンズのすき間(Vault)が徐々に狭くなる
- 加齢による白内障の発症
- 眼圧上昇や角膜内皮細胞の減少
こうした場合、数年〜十数年後にICLを取り出す手術が必要になることもあります。
「外せる」から安心、とは限らない
「ICLは取り出せるから安心」とよく言われますが、取り出したからといって手術前の状態に完全に戻るわけではありません。
- 角膜切開の跡は残る
- ICLを入れていたことで目の内部に変化が起きている可能性がある
- 抜去手術自体もリスクを伴う
このため、「外せる=元通り」とは限らない点を理解しておく必要があります。
ICL手術の主なデメリットまとめ

| デメリットの内容 | 詳しい説明 |
| 費用が高い | 両眼で50万〜70万円前後(自由診療)。医院によって46万〜85万円程度まで差があります。 |
| 術後の乱視(惹起乱視) | 角膜切開によって0.3〜0.5D程度の乱視が生じることがあります。 |
| レンズサイズのミスマッチ | Vaultが広すぎ・狭すぎると交換・再手術が必要になることがあります。 |
| 経年による抜去の可能性 | 白内障・眼圧上昇・角膜内皮細胞減少などが起こった場合は、取り出す手術が必要です。 |
| 完全な「可逆」ではない | 外しても元通りではありません。角膜の切開跡や内部の変化が残ります。 |
| 適応外の人もいる | 例えば角膜が浅い(ACD<2.8〜3.0mm)、角膜内皮細胞が少ない(2000/mm²未満)などの方は手術できません。 |
それでもICLを選ぶ価値がある人はこんな人

ICLは誰にでも適している手術ではありませんが、条件が合う方にとってはとても有力な選択肢です。次のような方に向いています。
- 強度近視で、レーシックやSMILEでは矯正が難しい
- 角膜が薄い、または形が特殊で角膜手術が適さない
- 眼鏡やコンタクトが合わず、日常生活に支障がある
- 定期検診を受け、リスクを管理しながら長期的にフォローできる
ICLは適応条件を満たしたうえで、医師としっかり相談して決めることで、生活の質を大きく向上させられる可能性があります。
デメリットを最小限にするためにできること

ICL手術のリスクは、事前準備と術後ケアで減らせます。以下のチェックリストを参考に、安心して手術を受けられるよう準備しましょう。
| チェック項目 | 詳しい説明 |
|---|---|
| 適応検査をしっかり受ける | 角膜の厚み、前房深度(ACD)、角膜内皮細胞数などを詳細に測定し、手術が安全に行えるか確認する。 |
| 複数のクリニックで比較する | 費用、使用レンズ、医師の経験、アフターケア内容を比べ、自分が納得できる医院を選ぶ。 |
| 術後の定期検診を欠かさない | 翌日・1週間・1か月・半年・1年といったタイミングで必ず受診し、目の状態を継続的にチェックする。 |
| 保証や再手術対応を事前に確認 | レンズ交換や再手術が必要になったときの費用、保証期間、再手術対応の有無を事前に把握する。 |
よくある質問

Q1. ICLって将来どうなるの?ずっと入れたままで大丈夫?
ずっと入れて問題ない方も多いですが、白内障や眼圧上昇、角膜の変化があれば、レンズを抜く手術が必要になることもあります。
Q2. 外したら元通りになるの?
レンズは取り出せますが、完全に手術前と同じ状態になるわけではありません。膜の切開跡や目の中の変化は残ります。
Q3. レンズの大きさってどうやって決めてるの?
黒目の幅や前房の深さなど、目の大きさ・形を詳細に測定して最適なサイズを選びます。ただし、まれにサイズが合わず、再手術が必要になることもあります。
Q4. 手術したあと、何を気をつければいい?
定期的に病院で視力・眼圧・レンズの位置・Vault・角膜細胞数をチェックすることがとても大切です。
まとめ

ICL手術は、非常に優れた視力矯正方法のひとつです。
しかし「角膜を削らないから安心」という理由だけで安易に決めるのではなく、
- どんなリスクがあるのか
- 将来どんな変化が起こり得るのか
- 自分に本当に合っているのか
をしっかり理解したうえで選ぶことが大切です。
ICLは「正しく知り、正しく選ぶ」ことで、長期的に満足できる手術になります。
参考文献
・Packer M. The Implantable Collamer Lens with a central port: review. 2018.
・Choi H, et al. Paired-eye comparison of endothelial cell density and vault… 2024.
・Kisiel FB, et al. Endothelial cell loss post-ICL V4c… 2024.
・Mandal S, et al. Complications following implantation of posterior chamber pIOL. 2022.
・Del Risco NE, et al. Visual Outcomes of Cataract Surgery in Patients with Prior ICL. 2024.
・Wang BB, et al. Pupillary block from central port obstruction. 2025





























