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【第3回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。

視力は良いのに目が痛い?知られざる合併症「角膜神経障害性疼痛(CNP)」とは。手術適応外を見抜くスクリーニングの重要性と、光過敏やドライアイなどのリスク因子について眼科専門医が解説。
【第3回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。
【第3回/全4回】【連載:屈折矯正手術の現在地】 マーケティングから、解剖学へ。 日本の屈折矯正医療を「医学的な正解」へ書き換えるために。

現在、日本の視力回復手術の現場は、いささか歪な状況にあります。 「ICLは戻せるから安全」「角膜手術は古い」といった、医学的根拠よりもマーケティング(広告戦略)が先行した情報が溢れ、患者様が「自分の眼の形」に合わない手術を選んでしまうケースが後を絶ちません。

しかし、世界のスタンダードは異なります。 物理的に進化した最新の角膜手術(SMILE Pro等)と、眼球全体を実測する光学解析(Sightmap)、そして適応を見極めるための厳格なスクリーニング。これらを組み合わせることで、もはや「安全」は当たり前、「見え方の質」を追求する時代に入っています。

本連載は、南大阪アイクリニック理事長・渡邊敬三と、2026年春に大阪・梅田に開院する「EGEN VISION CLINIC」院長・梅本弓夏が、ネットの噂や古い常識を、最新のエビデンスと物理学の事実で上書きし、あなたが一生クリアな視界で過ごすための「屈折矯正の現在地」を提示します。


「手術できます」より「やめましょう」と言う医者を信じろ。 〜ネット広告には書かれない「角膜神経障害性疼痛(CNP)」のリスクと、適応除外の境界線〜

「検査を受けたその日に手術が可能です」「誰でも視力回復できます」。 ウェブ上の広告には、手軽さを強調する言葉が踊っています。しかし、もしあなたが訪れたクリニックで、簡単な流れ作業のような検査だけで「問題ありません、高いレンズを入れれば治りますよ」と即断されたなら、一度立ち止まってください。

視力回復手術は、魔法ではありません。生体に行う医療行為です。 解剖学的には手術が可能(角膜の厚みがある、度数が範囲内など)であっても、「神経学的・精神的」な理由で、絶対に手術を受けるべきではない人が確実に存在します。

眼科医の間で、技術的な失敗以上に恐れられている合併症があります。それが「角膜神経障害性疼痛(CNP: Corneal Neuropathic Pain)」です。 今回は、多くのクリニックが売上のために伏せがちなこのリスクと、それを回避するための「適応除外(スクリーニング)」の重要性について解説します。

1:視力は1.5なのに、眼が痛い。語られぬリスク「CNP」の正体

通常、手術の成功とは「視力が回復すること」を指します。 しかし、稀に「手術は完璧に成功し、視力も1.5出ている。傷も綺麗に治っている。それなのに、眼がヒリヒリと痛み続けて辛い」と訴える患者様がいらっしゃいます。

これが、CNP(角膜神経障害性疼痛)です。 従来のドライアイと混同されがちですが、本質は全く異なります。

  • 通常のドライアイ: 涙が減ったり、角膜表面が乾いて傷ついたりして痛む(侵害受容性疼痛)。点眼薬などで改善します。
  • CNP 表面に傷はないのに、「神経」そのものが過敏になり、誤った痛み信号を脳に送り続けている状態(神経障害性疼痛)。

角膜は人体の中で最も知覚神経の密度が高い組織です。手術(LASIKやSMILE、あるいはICLの切開)によって角膜の神経が切断されると、通常は数ヶ月かけて再生します。しかし、何らかの原因でこの再生プロセスがうまくいかず、神経が異常興奮を起こしたり、あるいは脳側の痛みの感受性が変化(中枢性感作)したりすることで、慢性的な痛みが生じることがあるのです。

この痛みは、通常の痛み止めやドライアイの目薬では治りません。だからこそ、「なってから治す」のではなく、「なりそうな人を事前に見抜いて手術しない」ことが、唯一にして最大の防御策なのです。

2:その手術、適応外かもしれない。「リスク因子」のスクリーニング

では、どのような人がCNPになりやすいのでしょうか。近年の研究論文により、いくつかの強力な「リスク因子(Red Flags)」が特定されています。

1. 異常な「光過敏性(Photophobia)」
「蛍光灯の光が眩しくて目を開けていられない」「サングラスがないと外出できない」。 術前からこのような強い羞明(しゅうめい)を訴える方は要注意です。これは眼球の問題というより、脳の中枢神経が刺激に対して過敏になっているサインである可能性が高く、術後に痛みが爆発するリスク因子となります。

2. 「症状」と「所見」の乖離(Pain without Stain)
診察室で医師が顕微鏡(スリットランプ)で見ると、角膜は綺麗で傷一つない。しかし、患者様は「目が痛くて開けていられない」と訴える。 この「見た目は正常なのに、自覚症状が激しい」という乖離(かいり)こそが、神経障害性疼痛の予兆です。これを「ただのドライアイですね」と見過ごして手術をしてしまうと、取り返しのつかないことになります。

3. 精神疾患の既往・心因性要素
うつ病、不安障害、線維筋痛症などの慢性疼痛症候群をお持ちの方は、痛みに対する脳のフィルター機能が低下していることがあります。 医学的には、これらの既往がある場合、手術適応は極めて慎重になるべき、あるいは「禁忌(やってはいけない)」と判断されるケースが多くなります。

3:名医の条件は「執刀数」ではなく「断る勇気」

残念ながら、効率を優先する一部のクリニックでは、こうした微細なリスク因子を見落とす、あるいは無視して手術を勧めるケースがあるようです。 「手術件数No.1」という広告は、魅力的に見えるかもしれません。しかし、その数字の中に「本来手術すべきではなかった人」が含まれているとしたらどうでしょうか。

真に信頼できる眼科医とは、「何でも治せます」と言う医師ではありません。 徹底的な問診と検査を行い、わずかでもCNPのリスク因子が見つかれば、「あなたの眼のために、手術はやめましょう」とハッキリ宣告できる医師です。

患者様にとって、手術を断られることはショックかもしれません。「せっかく決心して来たのに」と思うでしょう。 しかし、その「断る勇気」こそが、あなたの生涯のQOL(生活の質)を守るための、医師としての最大の誠実さなのです。

手術をしないという選択(眼鏡やコンタクトレンズの継続、あるいはオルソケラトロジーなど)もまた、立派な医学的処方箋の一つです。

■ 結論:リスクを直視するクリニックを選べ

視力回復手術は、人生を豊かにする素晴らしい技術です。私自身、その恩恵を多くの患者様に提供してきました。 だからこそ、その「光」の部分だけでなく、「影」の部分(CNPなどの稀な合併症)についても深く熟知し、それを未然に防ぐための網を張り巡らせているクリニックを選ぶ必要があります。

ただ視力を出すだけなら、機械があれば誰でもできます。 しかし、「痛みなく、快適に見え続ける目」を提供するためには、機械のスペック以上に、医師の「診断力」と「見極める目」が不可欠なのです。


〜眼科専門医の視点〜

EGEN VISION CLINICが最も大切にしているのは、手術の件数ではなく、患者様の生涯の目の健康です。

当院では、最新機器による光学的な検査だけでなく、神経学的・精神的な背景まで考慮した徹底的な術前スクリーニングを行います。 その結果、リスクがメリットを上回ると判断した場合は、「手術をしない」という選択も含めて、ご本人にとって最も誠実なアドバイスを行います。 無理な勧誘は一切いたしません。あなたの眼の「守り人」として、正しい医学的判断を提示することをお約束します。

よくある質問(FAQ)

Q. 検査で「手術できない」と言われることはありますか?
A. はい、あります。角膜の厚み不足だけでなく、重度のドライアイ、強い光過敏性、あるいは特定の精神的・神経的なリスク因子がある場合は、将来の疼痛リスク(CNP)を避けるために手術をお断りすることがあります。

Q. 手術後に目がずっと痛いという話を聞きました。
A. 稀に「角膜神経障害性疼痛(CNP)」と呼ばれる、原因不明の痛みが続くケースがあります。当院では術前の徹底的な問診とスクリーニングでリスクの高い方を事前に見抜き、手術を行わないことでこのトラブルを防いでいます。

INDEX

視力は良いのに目が痛い?知られざる合併症「角膜神経障害性疼痛(CNP)」とは。手術適応外を見抜くスクリーニングの重要性と、光過敏やドライアイなどのリスク因子について眼科専門医が解説。

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